プレスリリース

2014年11月 4日
(株)国際電気通信基礎技術研究所

細切れの周波数帯を活用した無線通信に実環境で成功
~無線通信向け周波数不足の緩和に期待~

【概要】
●成果
 株式会社国際電気通信基礎技術研究所(以下「ATR」、本社:京都府相楽郡精華町、代表取締役社長:平田康夫)は、広帯域離散OFDM技術を用いた、細切れの周波数帯を活用した無線通信に成功しました。具体的には、総務省近畿総合通信局殿の協力により特定実験試験局免許を取得し、試験装置により実際に電波の発射を行い、周波数が270MHzから430MHzの範囲にある合計2MHzをまとめた無線通信を確認しました。(図1)

図1 今回の成果


●実現可能なこと
 今回の広帯域離散OFDM技術による無線通信の成功で、これまで利用できなかった細切れの周波数帯を活用するための基礎技術が確立されたことになります。これにより、スマートフォン等の普及により発生している、無線通信に使える周波数帯の不足の緩和に役立つことが期待されます。(図2) 今後、試験装置等を用いて、要素技術の詳細な評価を行い、実用化に向けた取り組みを進める予定です。

図2 広帯域離散OFDM技術で実現可能なこと

 本研究開発は、株式会社KDDI研究所(以下「KDDI研究所」)と共同で実施している、総務省「電波資源拡大のための研究開発」による委託研究「広帯域離散OFDM技術の研究開発」の成果の一部です。開発した試験装置は、2014年11月6日と11月7日に開催するATRオープンハウス2014(http://www.atr.jp/expo/index.html) にて動態展示を行い、当日受付を行っていただければ一般の方も見学いただけます。

【背景】
 スマートフォンやタブレット等の普及により、無線通信量は今後も増え続けると予想されています。しかし、移動体無線通信に適した、6GHz帯以下の周波数では、まとまった幅の周波数の空きがほとんどなく、無線通信向けの周波数が不足しつつあります。
 ところが、6GHz帯以下の周波数では、以下の(a)や(b)のような「空き周波数帯域」が細切れの状態で存在します。ATRでの調査では、100MHzから1GHzの周波数帯において、(a)や(b)の合計で最大290MHzの空き周波数帯域が存在することを確認しています。
▪ (a) 既存の周波数割当の隙間となる周波数帯域
▪ (b) 既に周波数の割当を受けているが、時間や場所によって使われていない周波数帯帯域

図3 現在の周波数状況イメージと空き周波数帯域


 このような空き周波数帯域をまとめて無線通信に利用することができれば、新たに無線通信用に周波数を確保したことと同じ効果が得られます。そこで、ATRでは「広帯域離散OFDM (WNC-OFDM: Wideband Non-Contiguous Orthogonal Frequency Division Multiplexing) 技術」の研究を行い、空き周波数帯域を活用する無線通信を実現しました。(図4)

図4 WNC-OFDM技術の概要

【WNC-OFDM技術のポイント及び試験装置】
WNC-OFDM技術のポイントは次のとおりです。
▪ 図4のように、幅広い周波数に細切れで存在する空き周波数帯域に、無線信号を配置して送信し、束ねて受信する技術を実現しました。
▪ 他の要素技術として、①被干渉対策技術、②与干渉対策技術、③適応変調制御技術、③小型(タブレットサイズ)の受信アンテナを考案しました。(図5 ①~③)

図5 WNC-OFDMの他の要素技術

 ATRでは、WNC-OFDM技術を用いた試験装置を完成させました(図6)。試験装置は、基地局装置と移動局装置で構成され、周波数が170MHzから1GHzまでの範囲のうち、合計36MHz幅の細切れの周波数を束ねて無線通信を行うことが可能な性能を有しています。

図6 WNC-OFDM技術の試験装置

【WNC-OFDM技術による成果】
WNC-OFDM技術の試験装置を用いた伝送実験を行い、ATR周辺において、実際に電波を発射して、無線通信を行えることを確認しました。電波の発射に際しては、無線局免許が必要になりますが、総務省近畿総合通信局殿の協力を頂き、特定実験試験局免許を取得しています。伝送実験では、周波数が278MHzから428MHzの間の範囲に、合計で2.115MHz分の細切れの周波数に無線信号を配置し、データの送受信が可能なことを確認しています。(図7、図8)

図7 実験に利用した周波数とスペクトラムアナライザにより観測した電波の様子


図8 基地局と移動局での伝送実験風景

【今後の展開】
 WNC-OFDM技術による伝送実験の成功により、これまで利用することができなかった、細切れで存在する空き周波数帯域を活用するための基礎技術が確立されたことになります。
本技術を適用することで、移動体無線通信に適した6GHz以下の周波数帯で必要な周波数の確保が可能となり、周波数不足の緩和が期待されます。
 今後、WNC-OFDM技術については、伝送実験を継続し、試験装置に実装されている技術の検証を行います。加えて、伝送実験結果のフィードバックを行い、計算機シミュレーションで、要素技術の検証や高度化に向けた検討を行います。また、WNC-OFDM技術で得られた知見を活用し、3GPP等での標準化に貢献します。これらにより、WNC-OFDM技術の実用化に向けた取り組みを進めていきます。
 さらに、総務省委託研究「広帯域離散OFDMの研究開発」を共同で実施しているKDDI研究所と共に、WNC-OFDM技術を用いた無線通信システム実現の検討を進めていきます。具体的には、既存無線システムと共有する場合の空き周波数帯の状況をKDDI研究所で担当している信号検出技術で把握し、それをATRで担当しているWNC-OFDM装置に通知し、利用する周波数を制御することで、既存無線システムへの影響を最小限にする仕組みを検討しています。


【報道向けデモンストレーション実施案内】
● 報道向けデモンストレーション
WNC-OFDM技術の試験装置によるデモンストレーションをATRオープンハウス2014の一般公開に先立ち開催します。 ご希望の方はお集まりいただければ幸いです。
  日時  平成26年11月6日(木) 12:50~ (15分程度)
  場所  株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)
       (京都府相楽郡精華町光台2丁目2番地2)
  集合  平成26年11月6日(木) 12:50 ATR 1F玄関受付
なお、WNC-OFDM技術の試験装置は、ATRオープンハウス2014の一般公開において動態展示をしております。 こちらを取材いただく場合は、WNC-OFDM技術の概要をまとめた資料を準備しておりますので、ブース担当者にお知らせいただければ幸いです。





■ 補足資料
【用語、参考文献】
  • OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)
  • LTEシステム、無線LAN、地上波デジタル放送などの無線伝送に用いられている、デジタル変調方式のひとつです。
  • 特定実験試験局
  • 科学又は技術の発達のための実験や電波利用の効率性に関する試験等の目的であれば、あらかじめ公示されている周波数や空中線電力等の範囲で、短期で無線局免許を取得できる制度です。
    http://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/spexp/
  • 3GPP。
  • LTEやLTE-Advancedシステムに関する技術仕様の標準化を行っている国際的な団体です。。
    http://www.3gpp.org/
  • ATRでの空き周波数帯域の調査結果に関する論文。
  • 堀端研志,高草木恵二,長谷川晃朗,柴田達雄,武内良男: 広帯域離散OFDM利用を想定した実環境における電波観測及び解析,電子情報通信学会 ソサイエティ大会,B-17-12 (2013).

【実用化イメージ】
 WNC-OFDM技術の実用化イメージを図9に示します。①ローカルエリアM2Mのような機器間通信、②空き周波数帯域活用型無線システムによる無線通信、③マルチバンド・マルチホップによるカバレッジ範囲の拡大等での利用が想定されます。

図9 WNC-OFDM技術の実用化イメージ

【類似技術や研究との相違】
○ キャリアアグリゲーション技術 (Carrier Aggregation)
 複数の周波数帯を同時に利用するという意味で類似技術となる、キャリアアグリゲーション技術が現在のLTEシステム向けに通信事業者で導入されつつあります。キャリアアグリゲーション技術では、あらかじめ定められている周波数帯の組に対して、無線リンクを束ねて利用することが可能です。これに対し、WNC-OFDM技術では幅広い周波数帯域幅の中で任意に利用する周波数帯を変更し、束ねられることが大きく異なります。(図10)

図10 キャリアアグリゲーション技術とWNC-OFDM技術の比較

○ NC-OFDM技術
 類似研究として、NC-OFDM (Non-Contiguous Orthogonal Frequency Division Multiplexing) 技術があります。NC-OFDM技術も、WNC-OFDM技術と同様に、無線信号を細切れの周波数に配置して、束ねて無線通信を行う技術です。これまでのNC-OFDM研究に基づく実装では、ある周波数(5GHz帯)の連続する周波数帯域幅30MHzの中で束ねた通信を実現しています。これに対し、今回開発したWNC-OFDM技術の試験装置では、170MHzから1GHzの広い周波数帯に渡る830MHz幅の中で、細切れの周波数帯に配置された無線信号を多数束ねることを実現している点で大きく異なります。これにより、ひとつひとつの空き周波数帯域幅は小さくても、多数の周波数帯を束ねることで、必要な周波数帯域を確保することが可能になります。